導入されてから数年が経ち、もはやお馴染みとなったサッカーのVAR(ビデオアシスタントレフェリー)。もちろんカタールワールドカップでも採用されることが決まっています。
しかしVARの介入条件やOFR(オンフィールドレビュー)との違いがわからない方も多いのではないでしょうか?
今回はサッカーのVARについて解説していきます。
VARとは?
まず簡単にVARとその哲学について説明します。
VARとはビデオアシスタントレフェリーの略で、主に主審の判定をサポートする役割を担います。たまに混同されるのですが、ワールドカップで採用されているGLT(ゴールラインテクノロジー)とは別もの。GLTはゴールラインを完全に越えたのかを判定する技術です。
VARの哲学は「最小限の干渉で最大の利益を得る」。要するに、厳密に正しい判定を導くのが目的なのではなく、ゲームに大きな影響を与える明確な間違いを減らすことを哲学としています。
参考サイト→VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)|ルールを知ろう!|JFA.jp
このことはVAR介入の要件にもつながってくるので頭に入れておいてください。
VAR介入の4要件とは?
VAR介入の要件は4つ。
逆に言えば、これ以外の事象には「はっきりとした明白な間違い」であったとしてもVARが介入することはできません。
例えば、攻撃側チームが最後にボールに触ってそのままゴールラインを出た場合、守備側チームのゴールキックで再開するのが正しい再開方法です。しかし審判団が誤ってコーナーキックを指示したとしても、それに対してVARが介入することはできません。
なぜなら上記の4要件に当てはまっていないからです。
同じように、退場にもPKにもならないファールについても介入することは不可能。要するに、ペナルティエリア外で退場にならないレベルのファールは明らかな間違いでも主審の判定通りということになります。
一応副審や第4審といった現場のレフェリーの助言で判定を変えることはできますが、VARから介入することはできないというのは覚えておいてください。
参考動画↓
次に4要件について詳しく見てみましょう。
得点かどうか
VAR介入の頻度が高く、試合への影響度も大きいのがこの得点に関する事象。
得点があった場合、その得点が正当なものかどうかを見ます。要するに、攻撃側チームにファールやオフサイドなどの反則行為がなかったかどうか、ということですね。ちなみにGLTが導入されていない試合ではゴールラインを完全に割ったかどうかも見ることになります。
このケースではオフサイドか否かを見るパターンが非常に多いです。特に最近のサッカーではオフサイドラインギリギリの駆け引きがポイントになっているため、必然的にこのケースが多く生まれます。
カタールワールドカップではボールにセンサーを埋め込み、AIも利用した半自動オフサイド判定システムが導入されており、正確に素早くオフサイドの判定をすることが可能になっているもよう。
もしVARが1986年メキシコワールドカップに導入されていたら伝説の「神の手」ゴールは生まれなかったことになります(笑)。
PKかどうか
これは単純で、PK(ペナルティキック)にあたる反則についてです。ペナルティエリア内での反則についてはかなり厳しく見られると思っていいでしょう。
この事象には2つのパターンがあります。
主審がPKと判定した場合
主審がPKと判定したものの、VARから見ると実はPKではなかったのではないか、というパターン。
主審は守備側選手のハンドを取ったものの、実はよく見ると攻撃側選手の手だったりする場合や、接触が明らかに軽微で反則を取るほどではなく、大げさに倒れただけの場合などが挙げられます。
この場合はVARの助言でPKを取り消すことができます。
主審がPKと判断しなかった場合
VARはPKの可能性があると思ったものの、主審がPKと判断しなかったパターン。
これは主審が単純にPKになり得る事象を見逃した場合と、認識はしていたが反則は取らないという判断をした場合の2つがあります。
前者の場合は後述する「OFR(オンフィールドレビュー)」になるパターンが多いです。後者の場合は主審とVARの認識が一致していれば主審の判定を尊重し、そのまま続行になることが多いでしょう。
もちろんVARはあくまで主審の判定をサポートするだけですから、最終的な判断は主審が行うことになります。
退場かどうか
一発退場に当たる行為があったかどうかです。サッカーにおいて1人減ることの影響力は非常に高いため、VARの介入要件に入っています。あくまで一発退場のみであり、2枚目の警告に値するかどうかは対象外です。
この要件もいくつかのパターンが考えられます。
認識はしていたが退場の可能性がある場合
ファールや接触自体は認識していたものの、主審が思った以上に危険なプレーだった場合です。イエローカードを出していたとしても、レッドの方が妥当だとVARが判断した場合は介入対象になります。
特に最近の傾向として、足の裏を使ったプレーやアキレス腱付近へのファールは厳しく取られる傾向があります。
最近はプレースピードも速いので、レッド相当のプレーかを即座に判断するのは難しいです。審判心理としてレッドはなるべく出したくないというのもありますしね……特に試合序盤はなかなかレッドは出しにくいです。
もちろん本来は試合展開や経過時間は関係ないのですが……
審判が見逃した場合
審判が一発退場となり得る事象を見ていなかった場合です。
特にボールとは関係ないところで暴力的なプレーがあった場合などは、現実的には現場で判定するのは難しいところ。
それ以外でも広いピッチを人間の目で見ている以上どうしても見逃しは出てしまうため、VARがサポートをします。
DOGSOの可能性がある場合
DOGSOとはdenying an goal-scoring opportunityの略で、「決定的な得点機会の阻止」のことをいいます。
ペナルティエリアの外で決定的な得点機会を阻止した場合は一発退場になります。このDOGSOにあたる可能性がある場合、VARの介入要件に当てはまります。
DOGSOについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事→DOGSO(ドグソ)の4要件とは?SPAとの違いや三重罰になる条件も気になる!
ちなみに、VARが退場の可能性があると助言した場合であっても、主審はイエローカードを出すことも可能になっています。最終的な判定は主審というのは変わりません。
警告退場の人間違い
これは間違って違う選手に警告や退場を出してしまった、というパターンです。
このケースは超レアケースなので、ほとんど出ないと思います。まあ誰が見てもわかるタイプの間違いなので特に説明は不要でしょう。
VARとオンフィールドレビューとの違いは?
VARとオンフィールドレビューをごっちゃにしている人が多いですが、実は違います。
そもそもVARは全ての事象を見ています。得点が入ったのに「VARが見ていない」ということはあり得ません。オンフィールドレビューをしていなくてもです。
例えば得点があった場合、その得点が正当なものか、ファールやオフサイドがなかったかをVARがチェックします。必要に応じて主審と無線で交信し、主審が見た事象とのすり合わせを行います。
この動画の20:40くらいからは実際の主審とVARの交信の内容がわかります。
チェックの結果、「明確な間違い」があった場合はVARが介入し、VARオンリーレビューで判定を変えるか、オンフィールドレビューを行うことになります。
要するに、OFRをしていなくても、VARはチェックしているということです。
VARオンリーレビューになるかオンフィールドレビューになるかは主審の主観的な判断が必要か否かで決まります。
オンフィールドレビュー
オンフィールドレビューは主審の主観的な判断が必要な場合に使われます。TVシグナルのジェスチャーをし、主審がモニターで映像の確認をします。
例えばハンドの反則は意外と複雑で、手に当たったからといって全てがハンドになるわけではなく、主審の判断が必要になってきます。また、PKに値するかどうかも主審の判断次第。
もちろん映像を見た結果、判定を変えないという結論に至ることもあります。最終的な判断はあくまで主審が行います。
VARオンリービュー
客観的に誰が見ても明らかな場合はOFRをせず、VARオンリーレビューで終わります。TVシグナルのジェスチャー1回で判定を変えます。
特にオフサイドの判定はほぼVARオンリーレビューでの判断となります。
他にはファールがペナルティエリアの外か中か、人間違いも真実が明らかなのでわざわざOFRをしません。
しかし、試合の結果を左右するような重大な事象はOFRを行うことが推奨されています。試合終了直前のゴールやPKになり得る事象があった場合などです。あくまで「推奨」なのでしなくても構いません。
まとめ
今回はVARの介入要件とオンフィールドレビューについて書きました。
ポイントとなるのはVARが介入できるのは「はっきりとした明確な間違い」のみだという点。審判10人が見て8~10人が間違いだと言えるような状況にしか介入できません。介入された時点で判定が変わる可能性が高いのはそのためです。
要するに、審判の間でも意見が割れる五分五分もしくは7:3程度の事象であれば、VARの介入はできないということになります。ここは間違いやすいのでご注意を。
また、野球やテニスと違い、選手や監督からレビューを要求することはできないのもポイント。
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